pabulumの日記

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早稲田の文芸サークルpabulumのブログです。

2016年ベスト3

年末になると、よく新聞の書評やら何かで、「今年の収穫三点」などといって――この「収穫」という言葉について金井美恵子氏が嫌みを言っていた気がしますが、まあそれはよいとして――その年に出版された良書を識者が紹介したりしますよね。無論わたしは識者でもなんでもないわけですが、暇なので、今年刊行された書籍のベスト3をあげていきたいと思います。


1 保坂和志『地鳴き、小鳥みたいな』(講談社

わたしがもっとも愛する小説家のひとりである保坂和志氏の短篇集。小説論三部作から『カフカ式練習帳』を経て、圧倒的傑作『未明の闘争』で、小説の可能性を大きく広げた作家の、最新作である本書所収の4篇、とりわけ「キース・リチャーズはすごい」(わたしはこの本のなかでこれが一番好きだ)は、かなりエッセイに近いものに見える。が、読んでいると、これは紛れもなく小説だ、と思えてくる。なぜなのか。物語ではなく記憶に依って書いているからか。うまく分析することはできないが、間違いなく、ここにある言葉ひとつひとつが小説のものだ。もちろん本として売られているわけだから一応は作品として完成しているのだけれど、保坂和志は「カフカであるということは最後まで書ききらずに途中で放置することだ」という言葉通りに書こうとしているように思える。そういう小説。

2 不可視委員会『われわれの友へ』
(夜光社)

国家が、社会が、民主主義が、インフラが、サイバネティックスが、そして資本が、われわれを捕獲し、統治する。それはわれわれの生を奪い、革命的な力能を奪う。だから蜂起せよ、と不可視委員会は言う。蜂起とは、自己組織化であり、今あるこの世界のただ中に、新しい世界を顕現させることである。そこにこそ資本に収奪されたわれわれの生が、ちがうかたちで胚胎するのだ。ラディカルで美しい、「友へ」の呼びかけである本書自体が、新しい世界のためのの蜂起である。
(本書への応答として『HAPAX vol.5』があるが、とりわけそこに所収されている堀千晶「壁を猛り狂わせる」をぜひ併読してほしい)

3 絓 秀実『タイム・スリップの断崖で』(書肆子午線)

文芸批評家、絓秀実の時評集。イラク戦争の頃から、今に至るまでの様々な事象が扱われているが、ここでの絓の態度は一貫している。それは欺瞞的なリベラルへの批判である。たとえば、反資本主義を言えない反原発に、反日米安保体制を言えない反安保運動に、どんな意義があると言うのか、と絓は問うのだ。もちろんその問いに答え、ラディカルであることは困難である。困難であるが、その困難さを見ないのであれば現状肯定に陥るだけではないか。徹底して「革命」を思考/志向し続けた著者の、優れた現状分析の書。必読!


他に2016年に出た本ですと、金井美恵子美恵子『新・目白雑録』(平凡社)、ナボコフ『絶望』(光文社古典新訳文庫)、スティーブン・ミルハウザー『魔法の夜』(白水社)、酒井隆史『暴力の哲学』(河出文庫)、松本哉『世界マヌケ反乱の手引書: ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)が良かったです。それからまだ読んでいないんですが、ベケットの『事の次第』(白水社)が復刊されたのは嬉しかったですね。


ついでに映画と音楽のベスト3もあげておきます。



〈映画〉

1.『チリの闘い』(監督:パトリシオ・グスマン)
チリのアジェンデ政権とクーデター、それをめぐる労働者の顔のドキュメンタリー映画。

2.『ジョギング渡り鳥』(監督:鈴木卓爾
「モコモコ系メタSF映画」。映画への愛。

3.『この世界の片隅に』(監督:片渕須直
戦争をミクロ政治学的な観点から捉えた傑作。これがヒットしているんだからまだ日本も捨てたもんじゃない。



〈音楽〉
1.ザ・クロマニヨンズ『BIMBOROL』
いつものクロマニヨンズ。泣ける。

2.相対性理論『天声ジングル』
よくわかんないけどすごい。泣ける。

3.カネコアヤノ『さよーならあなた』
今年3回ライブ行った。泣ける。




まあわたしの2016年はこういう年でした。来年は文フリで冊子出します。小説書きます。頑張ります。



(Takebayashi )